〈土井〉なるほど、安心できて確かな選択肢ができればお客様にとってもうれしいことですね。しかし、いまなぜ大工さんたちの団結が必要なのでしょうか。どういう思いで匠会を立ち上げられたのかお聞かせ下さい。 〈早乙女〉いい家を建てたい、納得のゆく家造りをしたいという思いだけなんですよ、私たちは。そしていい仕事をするには下請けの仕事ではダメなんです。下請けでは、時間効率と生産性が最優先され、どうしても間に合わせの仕事になりがちです。あらかじめ用意された部材を取り付けるだけなので職人の質も問われない。私ら昔かたぎの大工からすると、こんな家造りでいいのかと施主さんに対して罪悪感すら覚えるほど、納得できないものだったのです。時流に甘んじて不本意な仕事をするよりも、基本に戻って施主さんと大工という関係から始めよう。そう反省して、同じ想いの同業者に呼びかけたのが立ち上げのきっかけです。
〈土井〉職人の想いは早乙女さんのお話を聞いて分かりましたが、一般にはまだまだ伝わってこない。ブランド力にどう共同して立ち向かうかが、これからの課題なのですね。 〈早乙女〉冒頭でご紹介くださったように、伝統的な在来工法による注文木造住宅へのニーズは依然として根強いものがあると思います。でも、お客様にとってみれば、大工に頼むのはコストもかかりそうだし、どの大工に頼めばよいか、信頼性で不安を感じるというのが本音でしょう。そうした意識を変えてもらうことが課題なんです。 そのためには、住まい手と大工との関係を再び結びなおすことからはじめるべきだと考えています。私たち大工がまず「腕のいい信頼できる大工がここにいますよ」と手を挙げなくちゃはじまらない。「匠会」がハイレベルな技術集団であることをアピールし、認知してもらうことが始めの一歩だと考えています。
〈土井〉これからお客様の信頼を得てゆくには大変な努力が必要ですね。 〈早乙女〉匠会のメンバーになるためには技術はもとより、接客態度やマナー、人間性にいたるまで、相当高いハードルを設けています。また、大工の良し悪しは、大工でなければ分かりませんから、会員相互の推薦がなければこの会には入れません。 でもこのハードルはスタートライン。入会後は相互に技術を競い合い、ノウハウを積み重ねて、マナーを含めた職人力・職人魂の向上に取り組んでゆきます。優秀な会員の表彰制度や技能競技会などの開催も予定しており、こうした継続的な活動を通じて、県内の職人のレベルアップを図りたいですね。そして匠会の職人に家造りを頼めば安心だ、と県民の皆様に評価していただけるよう研鑽に努めてゆきたいと思っています。最終的にはこの大工さんに頼んで本当に良かったと後々までお施主様に言われるのが目標です。
〈土井〉技術面は信頼できるとして、コスト面ではどうでしょうか? 〈早乙女〉個人では難しくても会として集団化すればスケールメリットで、多少のコストは抑えられると思います。しかし私たちが一番考えていただきたいのは、コストのとらえ方です。初期コストがいくら安くても、新築時が一番価値があって、年々その価値が減じていくのが今の住宅です。その点、私たちが建てる住宅は、メンテナンスを前提に建てていますので、長年の使用に耐え、価値を減ずることがありません。トータルコストではどちらがお得でしょうか。お客様にはここを見てほしいのです」
〈土井〉欧米などでは家は年数を経て手を加えるほど、資産価値があがるといいますね。 〈早乙女〉使い込んでますます風合いが増す。住む人に合わせてしだいに快適な住環境になってゆく。これが本来の住宅の姿で、使い捨てが常識の日本の住宅の状況はかなりおかしいと思います。無垢の国産材を使い、腕のいい大工が建てた在来軸組工法の家なら200年ぐらい平気でもちますよ。もちろん補修やリフォームを前提にしての話ですけれど。補修やリフォームが容易に行えるのも、軸組工法の大きなメリットのひとつです。
〈土井〉今話題の200年住宅の実現を視野に入れると、これからはメンテナンスやリフォームの技術が本当に重要になりますね。 〈早乙女〉実はその点も匠会を立ち上げた大きな理由のひとつなのです。3番目の目的にもかかわりますが、今のままでは与えられたキットを取り付けるだけの単純工しか育たない。現場はプラモデルを組み立てるようなものですし、業界全体でコストのかかる熟練大工を必要としないように効率化が進んでいます。でもね、実際は大工という仕事は家造りに関することは何でもできなくちゃいけない。前にも言ったように家は生き物で、建てたら終わりではないんです。過去形ではなく進行形でどんどんニーズが変化してゆく。大工は住む人のニーズに家を合わせてあげる必要がある。そこまでして大工なんですよ。 しかし個人ではとても弟子を仕込んでゆくゆとりなんてありません。今の仕事のシステムが続いてゆけば、いずれ本物の大工がいなくなってしまう。現場を知れば知るほどこの危機感は強くなっていきました。ではどうするか。個人では難しくても、心ある人々がスクラムを組めば、大工の技術や魂を若い世代に伝えることができるのではないか。そして今がその最後のチャンスなのではないか。そうした切実な思いが、私達の行動を強く促しているのです。
〈土井〉後継者の育成はこれまで放っておかれただけに本当に急務ですね。高い技術と気概をもった職人さんたちがいなくなれば、最終的に困るのは私たちですから。その意味でも匠会の今後の活動に注目したいと思います。 これまでのお話で職人さんの真実の想いが少しは私にも理解できたような気がします。最後に匠会の発足にあたって、今後の抱負を読者の皆さんに披露してくださいませんか。 〈早乙女〉いつの時代でも変わらない真実。それは、いい家は大工で決まる、ということ。いい大工とは、お客様の家を自分の家だと思える人間のことです。お客様に100%満足していただくために努力を惜しまぬ人間のことです。こうした心を抱き続けることが職人としての誇りだと私は思っています。匠会には同じ思いを共有する職人があつまっています。家造りを単なる商品経済のなかでのみ考えるのではなく、人と人との関係性のなかで捉えなおしたい。そうした場の中でこそ、われわれ職人は生き生きと歓びをもって仕事ができるのです。今私たちは私たちの存在を皆様に気づいていただきたく、小さな一歩を踏み出しました。ぜひ私たちに皆様の幸福な家造りのお手伝いをさせてください。今後とも皆様のご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます」
〈土井〉どうもありがとうございました。