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早乙女 正略歴
1961年(S36) 西方村(現西方町)に生まれる
1984年(S59)   大工見習い開始(栃木市にある中尾工務店にて) 
1986年(S61)   技能競技大会 6位入賞
技能競技大会金賞受賞 栃木県知事賞受賞
(親方のすすめで修行の傍ら3年間、栃木共同高等産業技術学校に通い、
その間行われた大会で上記のような成績をおさめた)
1987年(S62)   三代目棟梁となる
1991年(H3)   一級技能士合格
1994年(H6)   技能競技大会銀賞受賞 「木の花ホーム」をたちあげ、現在に至る
2001年(H13)   足利市建築文化賞受賞
   
土井 俊生略歴
福岡県北九州市出身。早稲田大学中退。
大学研究者向け資料を扱う学術出版社で
編集長・取締役出版部長として永年にわたり
教育学、社会福祉学を担当。
教育学会、福祉学会などと共同で数々の叢書を刊行した。
「人間らしい暮らし」を模索して五年前那須町に移住、
現在は編集・企画事務所イーコンを設立、フリージャーナリスト・
ライターとして活躍中。
那須の自宅を知人のいた大手建築会社に依頼するが、失望。
以来、住宅業界について猛勉強を開始、地場工務店の実力に目覚める。
「いい工務店がある」と聞くと、早速訪れて話を聞くのがライフワークのひとつになっている。
財界誌等多数のメディアにも優良工務店の紹介記を寄稿。
 住宅業界は大手住宅会社全盛のイメージが強いのですが、アンケートをとると「自分の家は信頼できる大工さんに建ててほしい」と思っている人が意外に多いということがわかります。建売、プレハブ、外来工法など一通り新しい住宅文化の洗礼を受けてきた私たち。そろそろ原点回帰して、本物を見分ける目が養われてきたのかもしれません。すべてがキット化されてプラモデルのように簡単に組み立てられる住宅と、自分のために吟味された材料で丁寧に建てられた在来工法の家とではどちらがいいか一目瞭然ですからね。
 私たちにしてみれば、顔なじみの棟梁に、地元の気候風土に合った家を建ててもらい、家族構成の変化にあわせて増築やリフォームをお願いして、末永く面倒をみてもらう。こんな関係がベストなんだと思います。家は建てるまでよりも、建ててからの方がはるかに大事なのですから。
 今の住宅業界には、こうした関係性がすっぽりと抜け落ちてしまっているように思えます。逆に家造りを商品として割り切り、売り渡したらそこでおしまいというコスト削減や効率化を至上命令に据えることで、住宅業界は産業として巨大化し近代化が図れたのだともいえます。しかし、失ったものもまた大きかったのではないでしょうか。
 「一棟入魂」――職人の誇りにかけて、どんな細部をもゆるがせにせず丁寧に仕上げてゆく家造り。建て主さんの顔を思い浮かべながら、「これは俺が建てた家だ」と胸を張れる家造り。――もう一度、家造りを血の通ったものにしたい。そう心から願う職人達が団結して「しもつけ匠会」が立ち上がりました。「いい家を造りたい」と本気で取り組んでいる職人さんたちを代表して、発起人でもある早乙女正さん(1級技能士、ソウケン代表)にその熱い想いをお聞きしてみたいと思います。
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〈土井〉「しもつけ匠会」とはどのような会なのですか。
〈早乙女〉栃木県内で活動する高い技術をもった職人を集めて結成した、職人集団です。匠会には3つの大きな目的がありまして、第一の目的はお客様に職人選びの基準を提供すること、二番目は会員相互に切磋琢磨し、県内の職人のレベルを底上げすること、そして三番目は私たちが持っている技術を伝承し、後継者を育てることです。
 家造りで一番大切なことは何か。設計、材料、デザインがいくら優れていてもそれを料理する腕がなければ、すべては台無しですね。ですから家造りは大工の腕次第なんです。「いい家は大工で決まる」という私の持論は決して誇張でも宣伝でもありません。プロとして職人としての本音です。
 しかし、残念ながら腕のいい大工は現代では数えるほどしかいません。私の家は3代続く棟梁をしていて、私も幼い頃から大工の作法と技術を叩き込まれて育ちました。ひとり立ちして沢山の現場を経験してみて、初めて知ったのです。しっかりと訓練された大工がいかに少ないかを。
 今もその傾向が続いていますので、単純な作業しかできない大工が増えています。いくらお客様が大工さんに家を建ててもらいたいと思っても、まず大工さん選びでさんざん頭を悩まさなければならない。下手な大工さんに当たったらそれこそ悲惨ですからね。しかし、いくら考えたり調べても最後の確信がもてない。一生で一番大きな買い物ですから無理もありません。
 実は大工の腕はいい大工でなければ分からない。それなら我々大工自身が優秀な大工や家造りの職人を選んでお客様に提示できたら、迷っておられるお客様のお役に立てるのではないか、と思ったのが会を立ち上げた第一の動機でした。
 匠会は我々が良心とプライドにかけて互選した「志があって腕の立つ家造りのエキスパート集団」です。安心・安全神話がいたるところで崩壊し、官公庁への信頼すら揺らいでる日本社会ですが、「匠会はお客様の信頼を絶対に裏切らない」と決意を固めた私たちは今、この旗印を高く掲げて船出したところです
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〈土井〉なるほど、安心できて確かな選択肢ができればお客様にとってもうれしいことですね。しかし、いまなぜ大工さんたちの団結が必要なのでしょうか。どういう思いで匠会を立ち上げられたのかお聞かせ下さい。
〈早乙女〉いい家を建てたい、納得のゆく家造りをしたいという思いだけなんですよ、私たちは。そしていい仕事をするには下請けの仕事ではダメなんです。下請けでは、時間効率と生産性が最優先され、どうしても間に合わせの仕事になりがちです。あらかじめ用意された部材を取り付けるだけなので職人の質も問われない。私ら昔かたぎの大工からすると、こんな家造りでいいのかと施主さんに対して罪悪感すら覚えるほど、納得できないものだったのです。時流に甘んじて不本意な仕事をするよりも、基本に戻って施主さんと大工という関係から始めよう。そう反省して、同じ想いの同業者に呼びかけたのが立ち上げのきっかけです。

〈土井〉職人の想いは早乙女さんのお話を聞いて分かりましたが、一般にはまだまだ伝わってこない。ブランド力にどう共同して立ち向かうかが、これからの課題なのですね。
〈早乙女〉冒頭でご紹介くださったように、伝統的な在来工法による注文木造住宅へのニーズは依然として根強いものがあると思います。でも、お客様にとってみれば、大工に頼むのはコストもかかりそうだし、どの大工に頼めばよいか、信頼性で不安を感じるというのが本音でしょう。そうした意識を変えてもらうことが課題なんです。
 そのためには、住まい手と大工との関係を再び結びなおすことからはじめるべきだと考えています。私たち大工がまず「腕のいい信頼できる大工がここにいますよ」と手を挙げなくちゃはじまらない。「匠会」がハイレベルな技術集団であることをアピールし、認知してもらうことが始めの一歩だと考えています。

〈土井〉これからお客様の信頼を得てゆくには大変な努力が必要ですね。
〈早乙女〉匠会のメンバーになるためには技術はもとより、接客態度やマナー、人間性にいたるまで、相当高いハードルを設けています。また、大工の良し悪しは、大工でなければ分かりませんから、会員相互の推薦がなければこの会には入れません。
 でもこのハードルはスタートライン。入会後は相互に技術を競い合い、ノウハウを積み重ねて、マナーを含めた職人力・職人魂の向上に取り組んでゆきます。優秀な会員の表彰制度や技能競技会などの開催も予定しており、こうした継続的な活動を通じて、県内の職人のレベルアップを図りたいですね。そして匠会の職人に家造りを頼めば安心だ、と県民の皆様に評価していただけるよう研鑽に努めてゆきたいと思っています。最終的にはこの大工さんに頼んで本当に良かったと後々までお施主様に言われるのが目標です。

〈土井〉技術面は信頼できるとして、コスト面ではどうでしょうか?
〈早乙女〉個人では難しくても会として集団化すればスケールメリットで、多少のコストは抑えられると思います。しかし私たちが一番考えていただきたいのは、コストのとらえ方です。初期コストがいくら安くても、新築時が一番価値があって、年々その価値が減じていくのが今の住宅です。その点、私たちが建てる住宅は、メンテナンスを前提に建てていますので、長年の使用に耐え、価値を減ずることがありません。トータルコストではどちらがお得でしょうか。お客様にはここを見てほしいのです」

〈土井〉欧米などでは家は年数を経て手を加えるほど、資産価値があがるといいますね。
〈早乙女〉使い込んでますます風合いが増す。住む人に合わせてしだいに快適な住環境になってゆく。これが本来の住宅の姿で、使い捨てが常識の日本の住宅の状況はかなりおかしいと思います。無垢の国産材を使い、腕のいい大工が建てた在来軸組工法の家なら200年ぐらい平気でもちますよ。もちろん補修やリフォームを前提にしての話ですけれど。補修やリフォームが容易に行えるのも、軸組工法の大きなメリットのひとつです。

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〈土井〉今話題の200年住宅の実現を視野に入れると、これからはメンテナンスやリフォームの技術が本当に重要になりますね。
〈早乙女〉実はその点も匠会を立ち上げた大きな理由のひとつなのです。3番目の目的にもかかわりますが、今のままでは与えられたキットを取り付けるだけの単純工しか育たない。現場はプラモデルを組み立てるようなものですし、業界全体でコストのかかる熟練大工を必要としないように効率化が進んでいます。でもね、実際は大工という仕事は家造りに関することは何でもできなくちゃいけない。前にも言ったように家は生き物で、建てたら終わりではないんです。過去形ではなく進行形でどんどんニーズが変化してゆく。大工は住む人のニーズに家を合わせてあげる必要がある。そこまでして大工なんですよ。
 しかし個人ではとても弟子を仕込んでゆくゆとりなんてありません。今の仕事のシステムが続いてゆけば、いずれ本物の大工がいなくなってしまう。現場を知れば知るほどこの危機感は強くなっていきました。ではどうするか。個人では難しくても、心ある人々がスクラムを組めば、大工の技術や魂を若い世代に伝えることができるのではないか。そして今がその最後のチャンスなのではないか。そうした切実な思いが、私達の行動を強く促しているのです。

〈土井〉後継者の育成はこれまで放っておかれただけに本当に急務ですね。高い技術と気概をもった職人さんたちがいなくなれば、最終的に困るのは私たちですから。その意味でも匠会の今後の活動に注目したいと思います。
 これまでのお話で職人さんの真実の想いが少しは私にも理解できたような気がします。最後に匠会の発足にあたって、今後の抱負を読者の皆さんに披露してくださいませんか。

〈早乙女〉いつの時代でも変わらない真実。それは、いい家は大工で決まる、ということ。いい大工とは、お客様の家を自分の家だと思える人間のことです。お客様に100%満足していただくために努力を惜しまぬ人間のことです。こうした心を抱き続けることが職人としての誇りだと私は思っています。匠会には同じ思いを共有する職人があつまっています。家造りを単なる商品経済のなかでのみ考えるのではなく、人と人との関係性のなかで捉えなおしたい。そうした場の中でこそ、われわれ職人は生き生きと歓びをもって仕事ができるのです。今私たちは私たちの存在を皆様に気づいていただきたく、小さな一歩を踏み出しました。ぜひ私たちに皆様の幸福な家造りのお手伝いをさせてください。今後とも皆様のご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます」

〈土井〉どうもありがとうございました。

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